トラウマについて
トラウマとは、心的外傷（心の傷）のことを指します。これは、「まだ癒されていない傷」と言ってもよいかもしれません。何らかの辛い体験、恐い体験をすると、多くの場合、不安、不眠、食欲低下、動悸、集中困難などの症状が生じるものですが、時間の経過とともにそれらの症状もおさまっていくでしょう。ちょうど、転んで足をくじいても、体の持つ自然治癒力によって、出血が止まり、かさぶたができ、やがてそれもなくなって、怪我をする前のような状態に戻っていくのに似ています。しかし、トラウマは、その傷が癒えていない状態が続くため、いつまでもこれらの症状が消えない、あるいは過去の記憶が当時感じていた恐怖などを伴って浮かんでくるフラッシュバックが起きるようになったり、追いかけられる・殺されそうになるなどの悪夢を繰り返し見るようになったり、外出したり人と会ったりすることに恐怖を覚えるようになったりなど、症状が悪化してしまうこともあります。このように、トラウマを受けると、過去の出来事であるにもかかわらず、いつまでたっても「終わったこと」にはならず、現在進行形のようにその影響を受け続けてしまう状態となります。
以前は、戦争や自然災害のような、生死にかかわる大きな出来事によってのみトラウマになると考えられていました。しかし、現在では、以下の例のように、誰もが日常生活の中で体験するような、ありふれた出来事によってもトラウマを受けることがあり、決して珍しいものではないと考えられるようになっています。
特に、子どもの場合は、身体的にも精神的にも未発達なため、誰かに助けてもらわなければ、自分の力では自分の身を守ることができない場合が数多くあります。そのため、大人からすれば些細なことに見えるような出来事によっても、トラウマを受けてしまうことがあり、注意して見てあげることが大切になるでしょう。
人間関係（いじめ、パワー・モラル・セクシャルハラスメント、無視、暴言、怒鳴られる、恥をかかされる、侮辱されるなど）
家族関係（虐待、ネグレクト、家庭内暴力、親や養育者から過剰な期待やコントロールを受ける、貧困を含めた機能不全家族の中で育つなど）
事件（犯罪被害、性被害、痴漢、ストーカー、暴行、脅迫、事件の目撃など）
事故（交通事故、自転車やバイクでの転倒、高所から落ちる、怪我、火傷など）
自然災害（地震、津波、台風、洪水、火災、土砂崩れ、落雷など）
医療（手術、困難な出産、麻酔、長い闘病生活、医療アクシデントなど）
喪失（家族、パートナー、友人、ペットなど）
その他、ショックな出来事
PTSD（心的外傷後ストレス障害）では以下のような症状が見られます。
• 再体験症状・・・トラウマとなった体験が、今この瞬間に起きているかのように繰り返し蘇ってくる（当時の感情や感覚が蘇ってきて辛い、当時の映像や音声が生々しく再現される、追いかけられる・殺されそうになるなどの悪夢を繰り返し見る、訳もなく涙が出てくる・震える・動悸が起きる、など）
• 回避症状・・・トラウマとなった事柄に関連することを避ける（トラウマとなった記憶を呼び起こしてしまうため、特定の状況・場所・人を避けるようになるなど）
• 過覚醒症状・・・ストレスのない環境・状況にいても身体が緊張したままとなり、警戒した状態が続く（イライラ、眠れない、少しの音でもすぐに目が覚める、刺激に敏感になる、急な物音に対して過剰に驚くなど）
• 解離症状・・・トラウマによる苦痛を和らげるために生じる防衛反応として、ふわふわして現実感が薄くなる、頭に靄がかかったようにぼんやりする、辛かった体験のことを思い出せない、記憶が飛びやすいなど。
トラウマによって引き起こされる様々な問題
心のトラブル
不安、緊張、うつ、気分の落ち込み、イライラ、疲労感、集中できない、自責の念が強い、自分はダメだと強く思う、感情の起伏が激しい、感情が爆発してしまう、怒りを出せない、感情を表現できない、恥、罪悪感、無力感、将来への悲観、孤独感、愛する家族やペットを失った苦しみが続いている、恐怖症（対人恐怖、赤面恐怖、広場恐怖、閉所恐怖、高所恐怖、動物恐怖など）
身体のトラブル
頭痛、腹痛、めまい、便秘、下痢、過敏性腸症候群、過呼吸発作、嘔吐、生理不順、月経全症候群、慢性的な体の疲れ
食事の悩み（食べ過ぎる、食べられなくなる、食べ吐きする、いつも食べ物のことを考えてしまう）
睡眠の悩み（なかなか寝つけない、夜中に目が覚めて眠れない、悪夢を見る、悪夢を見る、いくら寝ても眠気が取れない）
肩こり、腰痛、線維筋痛症、原因不明の痛み、免疫疾患
自傷行為（リストカット、抜毛、頭を壁に打ち付ける、治りかけの傷のかさぶたを取る、爪や腕を嚙むなど）
依存症（アルコール、薬物、ゲーム、インターネット、恋愛、買い物、ギャンブル、性行為、仕事など）
人間関係のトラブル
他者への不信感、人が怖い、自分を出せない、自分に自信がない、人前で失敗しないかといつも不安を感じている、激しく依存したり、依存されたりする、相手がかわいそうになって別れることができない、必要以上に人に合わせようとし過ぎて疲れてしまう、学校や職場などで似たような対人トラブルが繰り返し起きる、恋愛関係の中で同じような問題が繰り返し起こり、破局してしまう、相手から見捨てられる不安があり、必要以上に相手に尽くしたり、嫌なことでも断ったりすることができない、親密な関係を求めるが、同時に強い恐怖を感じてしまう。
トラウマからの回復
カウンセリングルーム育てあいでは、クライエントの方々のニーズや状態に応じて、トラウマケアに有効な様々な心理療法を組み合わせ、セッションを進めていきます。トラウマ体験によって損なわれてしまった安心感・安全感をゆっくりと取り戻しながら、トラウマ記憶による苦痛を癒し、処理していくことで、トラウマからの回復を進めていけるようにサポートしていきます。それによって、一人でも多くの方が、過去の出来事が身体の中でも「終わったこと」と実感できるようになり、過去にとらわれずに、今、この瞬間を生きていくことができるようになっていただけることを願っております。
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